借地権とは?売却時に注意すること
借地権を売買する際のポイントと注意点、必要な費用を徹底解説

不動産の中でも「借地権(しゃくちけん)」は、普通の土地や建物の売買と違った特徴を持っています。特に東京や都市部では、古くからの借地が多く残っているため、実際に売買の対象になることも少なくありません。
しかし、借地権は法律や契約に基づいて成り立つ特殊な権利なので、よく理解せずに取引を進めるとトラブルになることも…。
この記事では、借地権を売買するときのポイント・注意点・必要な費用を、専門家の視点でわかりやすく解説します。
借地権とは?基本を理解しよう
借地権(しゃくちけん) とは、他人の土地を借りて建物を建てる権利のことです。
例えば「地主(じぬし)さんの土地を借りて、自分の家を建てて住む」場合、その権利が借地権です。
地主:土地を持っている人
借地人(しゃくちにん):土地を借りて建物を建てている人
借地権を持っている人は、土地を所有していない代わりに「借地権」という権利を持っており、その権利を売ることができます。
借地権を売買する際のポイント
1. 地主の承諾が必要
借地権を売却するとき、基本的には 地主の承諾(しょうだく) が必要です。
承諾とは「地主が売却してもいいですよ」と認めること。承諾を得ないまま売ると、契約違反になることもあります。
承諾を得るために「承諾料(しょうだくりょう)」というお金を支払う場合もあります。
2. 借地契約の条件を確認する
借地契約書には「期間」「更新の条件」「建物の用途」などが書かれています。
特に残りの契約期間が短いと、買主が不安になり、売却価格が下がることがあります。
また、古くから契約している借地権の契約では、上記のような内容の記載がないことも多く、確認・交渉が必用となるケースが多いのが実情です。
3. 借地権割合をチェック
土地には「借地権割合(しゃくちけんわりあい)」が決められており、これは路線価(国が定める土地価格の基準)で確認できます。
借地権割合が高いほど、借地権の価値も高くなります。
4. 建物の評価
借地権の取引では、建物の評価も重要です。古い建物の場合、建物自体の価値が低くても「借地権付きの建物」として価値があります。
借地権を売買する際の注意点

1. 地主との関係性
地主と借地人の関係が悪いと、承諾を得るのに苦労することがあります。普段から信頼関係を築いておくことが大切です。
2. 承諾料の金額
承諾料は地主によって異なり、目安は借地権価格の 5〜10%程度 と言われます。金額交渉が必要になる場合もあります。
3. 更新料や名義書換料
借地契約を更新する際には「更新料」、借地人が変わる際には「名義書換料」が発生することもあります、借地権の期間などによっては地主
これらも地主ごとの慣習や契約内容によって異なるため、事前に確認が必要です。
4.融資(ローン)の難しさ
借地権付きの不動産は、銀行の住宅ローン審査が厳しくなることがあります。担保価値が低いと判断されるためです。
買主がローンを利用する場合は、金融機関に事前相談しておくと安心です。
また地主による抵当権の設定承諾を得られるかどうかによって、借地権の価格が大きく変わるのもポイントです。
設定承諾を頂けない場合には、現金で購入していただける購入先を探す必要があります。
借地権売買にかかる主な費用

1. 承諾料
地主に支払う費用。借地権価格の5〜10%程度。
2. 名義書換料
借地人の名義を変更する際に地主に支払うことがある費用。
3. 仲介手数料
不動産会社に支払う費用。通常は売買価格の 3%+6万円+消費税 が上限。
4. 登記費用
所有権移転登記や抵当権設定登記にかかる費用。司法書士に依頼するのが一般的。
5. 税金
譲渡所得税(じょうとしょとくぜい):売却益が出た場合に課税される
登録免許税(とうろくめんきょぜい):登記をする際にかかる
借地権売買の流れ
契約内容の確認(借地契約書・残存期間・更新条件など)
地主への相談・承諾の取得
売買条件の調整(価格・承諾料・更新料など)
売買契約の締結
登記・名義変更
費用の精算
借地権を売却する際の価格の決まり方
借地権の価格は、主に次の要素で決まります。
路線価と借地権割合
土地の立地や形状
契約期間の残り
地主との交渉状況
建物の状態
一般に、更地価格に借地権割合をかけて目安を算出します。
よくある質問(FAQ)

Q1:地主が承諾してくれない場合はどうすればいい?
→ 裁判所に「承諾に代わる許可」を申し立てることができます。ただし時間と費用がかかります。
Q2:借地権を相続した場合も売れるの?
→ はい、売却可能です。ただし、相続登記を済ませてから売却手続きを行う必要があります。
Q3:借地権は買うメリットがある?
→ 借地権は所有権より安く購入できるため、立地の良い場所に安く住めるメリットがあります。ただし更新料や承諾料など維持費がかかる点には注意です。
専門用語解説

借地権(しゃくちけん):他人の土地を借りて建物を建てる権利。
地主(じぬし):土地を所有している人。
承諾料(しょうだくりょう):地主が借地権の売買を認める際に支払うお金。
名義書換料(めいぎかきかえりょう):借地人が変わるときに地主へ支払うお金。
借地権割合(しゃくちけんわりあい):借地権が土地価格に占める割合。路線価で確認できる。
譲渡所得税(じょうとしょとくぜい):不動産を売って利益が出たときにかかる税金。
登録免許税(とうろくめんきょぜい):登記をする際にかかる税金。
旧法借地権と新法借地権の違い
借地権には、旧法借地権 と 新法借地権 の2種類があります。
これは1992年(平成4年)に「借地法」が廃止され、「借地借家法(しゃくちしゃっかほう)」に統合されたことによって生まれました。
旧法借地権とは?
旧法(大正10年制定)に基づく借地権
契約期間は 建物の種類により20年または30年 が基本
期間満了後も借地人に非常に強い更新権が認められており、事実上「半永久的」に借地を使えるケースが多い
地主からすると契約を終了させにくい
新法借地権とは?
平成4年に施行された「借地借家法」に基づく借地権
契約の種類が3つに分かれる
普通借地権
期間:30年以上(初回30年以上・更新時20年以上)
借地人に更新権あり
定期借地権
期間:50年以上(原則更新なし)
期間満了で土地を更地にして返還する
事業用定期借地権
期間:10年以上50年未満
事業用建物を建てることを目的とする
売買における影響
旧法借地権は「半永久的に使える安心感」があるため価値が高い
新法借地権は「期間満了で必ず返還」する場合があり、価値が低めに評価されることもある
買主・売主ともに、どちらの借地権かを確認することが非常に重要です。
借地非訟とは?
借地非訟(しゃくちひしょう)とは、借地契約に関するトラブルを裁判所に解決してもらう手続きのことです。
通常の裁判と違って「非訟事件」と呼ばれる簡易な仕組みで、地主と借地人の利害を調整する役割を持っています。
借地非訟で扱う主なケース
借地権譲渡や転貸の承諾に代わる許可
地主が承諾してくれないときに、裁判所が代わりに許可する制度
建物の再築(建て替え)の承諾に代わる許可
老朽化した建物を建て替えたいが、地主が承諾しない場合に利用
契約更新拒絶や契約終了に関する調停
地主・借地人双方が納得できないときの調整
借地非訟は「地主との話し合いで解決できない場合の最後の手段」です。
ただし、時間や費用がかかるため、まずは話し合いでの解決を目指すのが現実的です。
借地権売買における登記の必要性
借地権を売買した場合、登記(とうき) の有無がとても重要です。
借地権の登記とは?
借地権を法務局に登録すること。
これにより、第三者(新しい地主など)に対しても自分の権利を主張できます。
登記の必要性
借地権が登記されていないと、地主が土地を他人に売却した場合に、借地人の権利が守られないリスクがあります。
実務上、借地権の登記は少ないのが現状ですが、建物の登記(借地人名義での建物登記)によって借地権を保護することも可能です。
賃借権と地上権の違い
借地権には、法律上 「賃借権(ちんしゃくけん)」 と 「地上権(ちじょうけん)」 の2種類があります。
賃借権とは?
契約に基づいて土地を借りる権利
借地権のほとんどは賃借権
地主の承諾が必要な場面が多い(譲渡・転貸など)
地上権とは?
登記によって成立する強い権利
地主の承諾がなくても譲渡や転貸が可能
農地や公共事業用地などに多い
売買における違い
賃借権付き借地権 → 承諾料や地主との交渉が必須
地上権付き借地権 → 自由度が高く、融資を受けやすい場合もある
実務では「賃借権」がほとんどですが、どちらかによって売買手続きの難易度が大きく変わります。
まとめ
借地権の売買は、普通の土地や建物の売買よりも手続きや費用が多く、地主との関係性や契約条件によって大きく左右されます。
地主の承諾を得ること
契約条件や残存期間を確認すること
費用(承諾料・更新料・名義書換料など)を事前に把握すること